異世界の一つ、イケムルネス・・・そこはわれわれ人間が住む現実世界ととても似ている世界である・・・

その世界では争いがほとんどなく、人々の和気藹々とした雰囲気に包まれている
だがその平和の影で格差社会が深刻化していた


鴨直あるま、彼女も格差社会の被害者の一人である
右に緑の瞳を、左に蒼の瞳を持つオッドアイの少女は
親に物心付く少し前に捨てられ、近所の人達に育てられた経緯がある
そして偏見や差別に苦しめられながらもたくましく生活している

「ふぅ・・・毎度の事ながらあの連中しつこいわね・・・」

後方を確認したあるまがため息をつきながら言う、特定の人物3人組に追い掛け回されているのだ
ついさっきも追いかけられていたのである、捕まったら何をされるかわからない、そんな恐怖が彼女を突き動かし、走らせたのだ

「逃げてばかりじゃ道は開けないぞ?」

不意に男の声が聞こえあるまが声のする方向へ振り向く
そこには燃えるように紅い瞳をもつ銀髪の青年が壁に寄りかかりながらあるまのほうを見ていた

「あなたは・・・?」

あるまは見たところ年上と判断したようで丁寧な言葉遣いで話しかけた
銀髪の青年は姿勢を直し、会釈をして話し始めた

「驚かせてしまったようで申し訳ない、俺の名はルート・フェリスディア・ウォルス、長いからルートとでも呼んでくれ」

ルートは富豪層の人物である、こんな汚いスラムに来るのは物好き位しかいない、なぜここに?なぜ私に声を?と、あるまが問う

あるまはすっかり警戒を解いてルートに話しかけた、彼からは敵意を感じなかったらしい

「何って決まってるじゃないか、俺は格差社会を嫌う者だ、当然資産もあるが、
それのほとんどをスラムの人達に分け与えて、少しでも格差をなくそうとしている
そして、スラムの人達の人権を守るためにも活動をしている」

それを聞いたあるまは天の助けだ、と思い途端に笑顔になった

「私、鴨直あるま、ルートさん、よろしくお願いしますね」

ニコッと笑って可愛らしく挨拶した、ルートもそれを見て少し口元が緩んだが、あるまには見えなかったようだ
ルートがあるまに向かって手を伸ばした、まるで「来い」とでも言うかのように

「さて、俺と一緒に行かないか?差別のない、格差社会のない本当の楽園へ」

あるまはもうこのスラムに未練はない、育ててくれた人も、皆迫害によってすでにこの世から去ってしまっていたから・・・

「・・・つれてってください、私をその楽園へ・・・!」

あるまはルートの手に自分の手を乗せ、ギュッと握った
その時だった、ルートの背中から白い翼が現れたのは
あるまは驚いたが、きっと救いの神が私に天使を寄こした、と思いそのまま目を閉じた

「俺がいいって言うまで目は閉じていてくれ、いいな?」

うん、と返事をすると急に体に速度が掛かる、まるで走ってる時のような、疾走感、だけど自分の足には風の当たる感触しかない
一瞬、まぶた越しに明るかった視界が暗くなる、もう一度明るくなった後、ルートが目を開けていい、と言う
あるまは目を開け、その視界に広がる世界に驚いた、こんな世界があるのか、本当にあのスラムがあった世界なのか、と

「言うのを忘れていたが俺は堕天使“フェレスト・ウォルス”の末裔だ
だから実質天使みたいなものだ、もっとも、天国にも地獄にも連れて行けないがな
堕天使である祖先の血を引くウォルスの家系は神様に天使として見てもらえず
天使として行動できなくなっている、もともと持っている特殊能力とかは使えるが
天国と地獄、俗に言うあの世には移動できないということになる
そうだ、この地域では電話がない代わり、テレパシーを使って連絡を取り合っている
君にもテレパシーを使えるようにしてあげよう」

そういってルートはあるまに手のひらを向け、目を閉じ、何か難しい呪文を唱え始めた
人間の言葉でないため、奇妙な声に聞こえる
数秒たって、あるまの足元に魔方陣が現れた
魔方陣が消える頃、あるまは気が付いたらベッドで眠っていた、これ以上ないくらいの目覚めのよさだった

「気が付いたか、テレパシーが使えるようになってるはずだがどうだ?
テレパシーは話したい相手を知っている必要があるが知人にならテレパシーを飛ばすことができる
飛ばし方は話したい相手の顔と声を思い浮かべる、そして自分の伝えたいことを思い浮かべるだけだ」

そうルートに言われ、ルートの顔と声を、そして自分の伝えたいことを思い浮かべた

“これでいいの?ルートさん”

ルートはニッと笑ってうなずいた、そして話し始めた

「ここはたった今からあるま、君の家だ、火も、明かりも、水もある、暮らす為に必要なものは全てそろえた
この家にあるものであれば君が自由に使ってくれてかまわない、それと裸足だったのが気になったので靴と靴下も用意させた
後で家の前の広場、噴水の右手にある衣料品店へ行くといい、俺の名を言ってここに来たのが初めて、といえばある程度衣服もそろうだろう」

あるまはきょとんとしながらも頷いた、とりあえず今は眠いのでものすごくふかふかした、暖かいベッドにもぐりこんだ

ルートが家を出る直前に言った

「俺の家では主に食糧を生産している、肉、野菜、魚、果実・・・とにかく食べものの材料を生産している
その関係で大きい家だからすぐわかるだろう、俺と話したいときはいつでも来ていいぞ、俺の妹や弟も喜ぶ」

バタン、扉が閉まる音がした、そして足音が遠ざかる
だんだんと意識が睡魔によって薄れていく、今はただ、深く眠ろう・・・そうあるまは思い、眠りについた

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